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10.クロ失踪

 
 そんな或る日、何時もより早く帰った私は、駐車場の片隅のクロの小屋の前で、腕組み佇む小父さんが気になった。家の車庫に車を入れるのももどかしく、急いで小父さんの側に行ったが、挨拶を交わした後の小父さんは、何時もの様にクロの話をする事はなく、冷ややかであった。私はバカ猫と虎猫の確執が復活したと勝手に考えた。沈黙の叔父さんの側で手持ちぶたさで立っていると、小母さんのクロを呼ぶ声が聞こえてきたが、直に小母さんの声の異変に気づいた。クロの姿は見えないし、小母さんは小屋に向かってくることなく、明らかに歩き回っている。バカ猫に噛まれて、怯えていたクロを思い出すと、小屋の側で見張っていた小父さんが、毘沙門天や蔵王菩薩のように思えてきたが、当のクロの姿が見えなかった。

 何時までも無言の付き合で立っているわけにもいかず、一旦引き上げたが老夫婦の様子とクロの事が気になって落ち着かなかった。食事を終えて表に出ると、老夫婦の話し声が聞こえてきた。話の内容までは判別できないが、クロはまだ姿を現してないのは確かなようだ。 駐車場の外灯の下で、老夫婦は影絵のように立っていた。私に気づいた小父さんは「あなたのところにいれば安心だった」と言葉を飲んだ。「あんたには厄介を掛けたわね」と小母さんが言葉を引き継いだ。

 クロは3日前から行方不明であった。老夫婦はクロを探し続けていたのだ。何時もの時間に何時もの様にクロを呼び、何時もの様に食事を運んで、如何にもクロがいたかのように食事の時間を小屋の前で過ごした老夫婦は、明日の朝も又、何時通りに食事を運んでクロを呼び続けるのだろう。

 クロ失踪に対する2人の見解は違っていた。小父さんは二匹の雄猫、とりわけバカ猫が怪しいと言った。クロはバカ猫に何度も噛まれていたと言う。猫の習性に疎い私には、噛まれて虐められても付き合う猫の関係は理解できなかったし、個人主義の権化の猫が我慢して付き合うとは思えなかった。犬小屋でも小屋の主は斑なクロであり、バカ猫も虎猫も関係ないが、二匹の雄猫は、クロがいないのに時々姿を見せていた。状況から判断して、クロ失踪とバカ猫の関係は消えそうだが、小父さんは頑なにバカ猫が怪しいと思っているようだった。



9.オカマ猫

theme : ねこ大好き
genre : ペット

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